出産期待され  2004年5月17日(月)朝日新聞 声の欄

「出産期待され悩み苦しんで」
予備校講師 沼尻玲子(札幌市 38歳)

 

結婚したとたん周囲から子どもを産むこと
を暗黙のうちに期待され、そして子どもは
男児であることを望まれる。

それを役割だと受けとめ周囲の期待に応えたい。
同時に、ただ子どもを産むことのみを求められる
自分の存在意義とはなんだろうかと言う、
二つの想いのあいだで深く深く苦しむ——。

これは今でも多くの女性が経験していること
ですが、家の跡継ぎの妻という立場でなければ、
同じ女性でも分かってもらいにくい問題です。

まして、男性には理解できないかもしれません。
私自身、跡継ぎとして婿養子をとり、結婚して
すぐに「子どもは」と問われました。

「あぁ、私はもう子どもを産む機械でしかないのだな」
と思った瞬間、言葉に表せないほど自分を強く
否定されたような気がしたのを覚えています。

その数年後、自分の意志で離婚しました。
私には生きたい人生があります。
しかし、年老いていく両親を見ると
自分の不甲斐なさを思うのです。

二つの思いに心が引き裂かれ、
一日に何度もその痛みを感じます。

独りで苦しまず周囲の人と心を交わして、
自分の心に少しずつ折り合いをつけ、
回りの人をも満たすように出来れば
いいと思うのですが……。

 

 

 

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