出産期待され  2004年5月17日(月)朝日新聞 声の欄

「出産期待され悩み苦しんで」
予備校講師 沼尻玲子(札幌市 38歳)

 

結婚したとたん周囲から子どもを産むこと
を暗黙のうちに期待され、そして子どもは
男児であることを望まれる。

それを役割だと受けとめ周囲の期待に応えたい。
同時に、ただ子どもを産むことのみを求められる
自分の存在意義とはなんだろうかと言う、
二つの想いのあいだで深く深く苦しむ——。

これは今でも多くの女性が経験していること
ですが、家の跡継ぎの妻という立場でなければ、
同じ女性でも分かってもらいにくい問題です。

まして、男性には理解できないかもしれません。
私自身、跡継ぎとして婿養子をとり、結婚して
すぐに「子どもは」と問われました。

「あぁ、私はもう子どもを産む機械でしかないのだな」
と思った瞬間、言葉に表せないほど自分を強く
否定されたような気がしたのを覚えています。

その数年後、自分の意志で離婚しました。
私には生きたい人生があります。
しかし、年老いていく両親を見ると
自分の不甲斐なさを思うのです。

二つの思いに心が引き裂かれ、
一日に何度もその痛みを感じます。

独りで苦しまず周囲の人と心を交わして、
自分の心に少しずつ折り合いをつけ、
回りの人をも満たすように出来れば
いいと思うのですが……。

 

 

 

「夫との絆強めるために」2002年1月30日(水)毎日新聞

私・主義 「自己責任」時代の暮らしかた 番外編

昨年夏、60歳の女性が国内最高齢で男児を生んだ。
愛する男性の子どもを欲しいと望み、
自分の責任で超高齢出産を選んだ。

「私・主義」の番外編として、生殖医療の進化、
女性の生き方をめぐる議論のきっかけに
なった女性に話を聞いた。(戸嶋誠司)

卵子提供を受け60歳で初産

出産したのは都内の公務員、影山百合子さん(60)=仮名。
在米日本人女性(28)の卵子と夫の制止を体外受精させ妊娠。
昨年7月、帝王切開で2558グラムの元気な男の子を産んだ。
黒髪のおかっぱ、意思の強そうな目が印象的な女性だ。

24歳年下と再婚
53歳の時に24歳年下の米国人男性と再婚した。
「年齢差を埋め、2人の絆を強めるために
子どもを産むことにこだわりました。
でないと相手が離れていくと思ったから。
男と女がうまくいくには努力が必要でしょ?
私にとってそれが子どもでした」
3歳で両親を亡くした。
価値観の違う前夫との生活は冷え切っていた。
子どもはおらず、痴呆の祖母の介護、脳卒中で
倒れた夫の世話が加わり「このまま老いるのか」
の味気ない生活だった。

今の夫と出会い、状況は一変する。
「この人の子どもがほしい」との思いに押されて、
夫に離婚を切り出した。

再婚後の98年秋、不妊治療をコーディネートする
卵子提供・代理母出産情報センター(東京)を訪れた。
閉経間近だったので、日本では認められていない
卵子提供を米国で受けることを決めた。

60歳出産への世間の偏見は怖くなかったのか。
影山さんは「他人に迷惑をかけないで自分の
責任で引き受けた。
人間として恥ずかしくない生き方をしてきたので
不安はありませんでした」と、明るく振り返る。

検査で骨密度が20代並みとわかった。
歯はすべて自前。
医者が驚くほどの健康体。
薄くなっていた子宮内膜は、ホルモン投与で
着床可能な厚さになった。
子宮筋腫を切除したあと、2回に分けて
受精卵8個を子宮に戻し、妊娠した。
つわりはほとんどなく、妊娠中毒症も軽かった。
出産日は夫の誕生日に合わせた。

「医者が取り上げた子どものほっぺを
私のほっぺにくっつけてくれた。
温かい肌、ぬるっとした感触で、
『子どもを産んだんだ』と実感しました」

出産が大きく報道されると、「将来子どもの養育
ができるのか」「無責任だ」と批判が噴出した。
だが、影山さんは不思議に思ったという。
「子どもは母親だけで育てるわけではないのに。
私に何かあっても、夫が子どもをみてくれる
見通しがあった。
夫が同じ世代か上だったら、こんな選択は
しなかったでしょう」

自分の選択をまったく後悔していない。
「60歳は単なる老人ではない。
妊娠にだって挑戦できるし、何かを成す
可能性が残っていることを示せた。
まだまだ捨てたもんじゃないですよ」

「女の子がほしい
昨年11月に、仕事に復帰した。
生後6ヶ月の長男は今、体重7キロ。
テレビが大好きで、最近離乳食を食べ始めたという。
「2人目?
まだ1、2年のうちなら可能でしょう。
できれば女の子がほしいですね。
半分冗談で、半分本気です」

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ファイル
卵子提供・代理母出産情報センター
同センターの紹介で米国で卵子提供を受け、
出産した人は128人。
うち50歳以上は17人、閉経後の人も40人。
卵子提供者への謝礼や体外受精費用など
総額400万〜500万円がかかる。
鷲見侑紀(すみ・ゆき)代表は「影山さんは特別
な例だが、条件さえクリアすれば50代出産は可能。
産む産まないは女性が決めるべきだ」という。

「ありがとう、赤ちゃんー60再発出産の物語ー」
光文社 影山さんが自分の生い立ちや出産までの
経緯を綴った手記。

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社会は議論不足

柘植あづみ明治学院大学助教授(医療人類学専攻)の話

子どもを産んだ気持ちは理解できるが、卵子提供
という先端技術を利用していいかは、別の問題だ。
今の社会で、将来、子どもが何を思うかなどの
議論が足りない。
不妊治療を続けても子どもをもてない人もいるし、
高齢出産は自分の命にもリスクがある。
出産をあきらめることによって、
次の人生が開くこともある。
あきらめられない気持ちの背景を、
社会はもっと考えるべきだ。

 

 

 

性別変更、この認知認めず 凍結精子出産「現行法と整合せず」東京家裁

東京新聞  2022年3月1日

 

性同一性障害で男性から性別変更した女性が、
自分の凍結精子でパートナーの女性との間に
生まれた子と法的な親子となるための認知を
巡る訴訟で、東京家裁(小河原寧裁判長)は
28日、『法律上の親子関係を認めることは
現行法と整合しない』と認知を認めない
判決を言い渡した。

カップルは東京都の40代女性と、パートナー
の30代女性。40代女性が性別適合手術前に
凍結保存した精子を使い、39代女性が2018年
に長女、20年に次女を出産した。
40代女性は18年に戸籍上の性別を変更した。

判決は、親子関係は血縁上と法律上で
「必ずしも同義ではない」と指摘。
婚外子を父または母が認知できるとする民法
の条文は「『父』は男性、『母』は女性が
前提」とし、法律上の女性は「父」と認めら
れないと判断した。
懐胎、出産しておらず、「母」にも当たらない
とした。

女性側は認知届を出したが、自治体に受理さ
れず、子ども2人を原告として40代女性に
認知を求めていた。
原告側は控訴の方針。
別に、国を相手に親子関係の確認を求める
訴訟を起こし、東京地裁で審理中。

「実際に育て、生物学的にもつながって
いるのに、矛盾感じる」

1歳の次女とともに法廷で判決を聞いた40代女性。
判決後の記者会見で「親子関係がないと言われ
つらいし、残念に思う。
実際に育てていて、生物学的にもつながっている
のに、矛盾を感じる」と無念の思いを語った。
経済や福祉面で子に不利益になることが不安だと
いい、「裁判を続けたい。子どもが生きやすい
社会にしたい」と話した。

子どもたちは、女性二人をともに「ママ」
と呼んでいるという。
代理人の仲岡しゅん弁護士は、判決が母子関係の
根拠を出産としたことに「生殖補助医療もなく、
性同一性障害も認められていない大昔の最高裁
判決を引っ張ってきた。
家族関係は多様化しているのに硬直的な思考だ」
と批判。
男性ではないから「父」ではないという判断にも、
子が成人後に性別変更すれば女性が「父」、男性
が「母」となる実態を挙げ「未成年では認めない
合理的な理由はあるのか」と疑問を投げかけた。
松田真紀弁護士は「法律という多数決で決まる
ルールから取りこぼされる人を救うのが司法の役割。
少数者は誰に助けを求めればよいのか」と指摘
した。(小嶋麻友美)

 

子の福祉に触れず問題

渡邉泰彦・京都産業大教授(家族法)の話
子どもが親を求めた裁判なのに、判決が子の
福祉に触れていないのは問題。
戸籍に親として記載されず、子どもの
「出自を知る権利」も保障されないことになる。
法律上の「父」とは何かという論点にも
踏み込んでいない。
性別と親の分離について、きちんと議論すべき
だった。

 

 

 

au Webポータル 2022年2月28日

(弁護士ドットコム)

判決などによると、男性として生まれたが
性同一性障害を有していたため、性別適合
手術を受け、戸籍上の性別を女性に変更。
凍結保存していた精子をパートナーの女性
に提供し、2人の子をもうけたが、自治体
が認知届を受理しなかったため、2021年
6月に提訴していた。

判決後に開かれた会見で、性別変更した
Aさん(40代)は、「裁判の場で認めてもら
えず悲しく思う。(カップルで)子を産み
育てていて、生物学的に親子関係があるのに、
このような判断が出ることに矛盾を感じた」
と話した。

 

家裁「母子関係は懐胎・分娩によって生じる」

この日の判決は、Aさんのパートナー・Bさん
(30代)が2人の子どもを代理した原告として、
Aさんを被告とする「認知の訴え」に関する
もので、利害が完全に一致しているカップル
が原告と被告になる異例の裁判だった。

現状、子どもらの身に何かあっても、Aさん
は保護者として扱われない中、Aさんと子ども
らとの生物学上(血縁上)の親子関係がある
ことから、認知を求めていた。

東京家裁は、「親子関係は認めない」との
結論を下した。
主な理由として、女性が父親として子を認知
することはできないことと、母子関係は懐胎・
分娩によって生じるので、懐胎・分娩していな
い者には親子関係が生じていないことを挙げた。

その上で、「法律上の親子関係は民法における
身分法秩序の中核をなすもの」と指摘。
「多数の関係者の利害にかかわる社会一般の
関心事でもあるという意味で、公益的な性質
を有しており、当事者間の自由な処分が認め
られるものではない」として、「血縁上の父
が子の父となることを争っていないからとい
って、このことからただちに法律上の親子関
係を成立させて良いことにもならない」と判断した。

 

「戸籍上、女性である父や男性である母
はすでに存在する」

判決後の会見で、原告ら代理人の仲岡しゅん
弁護士は、「不当だ」と判決を批判した。

「女性である父や男性である母を認められない
という判断を下したことになるが、日本の法律
のどこにもそんな規定はありません。

むしろ、(性別変更の要件などを定める)性
同一性障害特例法では、性別変更する際に、
子が成人している場合だと、女性に変わっても
戸籍上は父のままですし、男性に変わっても
戸籍上は母のままです。
戸籍の記載上、女性である父や男性である
母はすでに存在しています。

今回は子どもが未成年のケースですが、あえて
(女性である父や男性である母を)認めない
合理的理由はあるのでしょうか。
私はないと考えています」(仲岡弁護士)

また、母子関係が懐胎・分娩によって生じる
との判断は「昔の判決を引っ張ってきた」と
話し、性同一性障害が認識され、生殖医療も
発達している現在とは「時代が違う」と指摘した。

「発達した生殖医療によって、懐胎・分娩に
よらずに子が生じることもあります。
家族関係が多様化している中、そういった
実態を認めずに、硬直的な思考で懐胎・分娩
によって生じると判断したわけですが、
間違っていると思います」(仲岡弁護士)

子どもを抱えながら会見にのぞんだAさんは、
「凍結精子だと認めないというのは時代錯誤
なのでは」と疑問の声をあげた。

「親子関係がないと言われ続けるのは辛いです。
ここで諦めるつもりはありません。
最終的には(親子関係を)認めてもらいたい
と思っています。
なかなか当事者でないと理解が難しいかもしれ
ませんが、こういう存在もいるのだということ
を社会にも認知してもらいたいです」(Aさん)

仲岡弁護士は、「認められないなら最高裁まで
争う」と話し、上訴する意向を示した。

 

 

朝日新聞D IGITAL 2022年2月28日

男性から性別を変えたトランスジェンダーの
女性と、自身の凍結精子を使って生まれた
子どもとの間に「親子関係」は認められるか――。
この点が争われた訴訟の判決が28日、東京家裁
であった。
小河原寧裁判長は「法律上の親子関係を認める
のは現行の法制度と整合しない」と述べ、
親子関係を認めずに請求を棄却した。

同性カップルの婚姻は法律で認められておらず、
40代女性と子どもは血縁関係がありながら
法律上の親子関係がない。
子どもを産んだパートナーのみ法的な親子関
係がある状態だった。

裁判では、原告の子ども2人が被告の40代女性
に対し親子の認知を求め、40代女性も親である
ことに合意していた。
判決が訴えを認めれば同性同士の親が誕生する
ことになり、司法判断が注目されていた。

訴状によると、40代女性の凍結精子を使い、
事実婚状態のパートナーの女性が2018年に
長女を出産。
40代女性はその後、性同一性障害特例法に
基づき性別を男性から女性に変更し、20年
には再び凍結精子を使って次女も生まれた。

民法は、婚姻関係にない男女の間に生まれた
子について「父または母が認知できる」と
定めており、40代女性は性別変更後、自身を
子どもの父とする認知届を自治体側に提出。
だが、「認知は無効」として受理されなかった。