「戸籍のない子」Who needs that? 戸籍15 

「昨年十二月に生まれた子どもの
戸籍がいまだにできない」

との投稿が3月のジャパン・タイムス
に載っていた。

日本人女性と結婚したイギリス人
からの訴えである。

彼の妻は再婚で、前の結婚の離婚届
を出した300日目に、現在の夫で
ある彼の子どもを出産している。

この場合、生まれた子どもは先夫の子
として、先夫の戸籍に入ることになる。

離婚後、女性だけに6ヶ月の再婚禁止
期間があることは、よく知られており、
昨年法務省から出された「民法改正
要項試案」にも、その期間を短くする
案が盛り込まれている。

しかし、「離婚後300日以内に出産
した子は、前の夫の子として夫の籍に
入る」との民法772条はほとんど知ら
れていない。

「嫡出生の推定の規定」いわれるものである。
「待婚期間の6ヶ月」と同様、「子どもが
どの男性の嫡出子か」を法律が決めたものだ。

普通、離婚には時間がかかり、離婚届を
出す前に別居やすでに別のパートナーとの
暮らしが始まっていることもある。

冒頭のケースの場合は、夫がイギリス人で
あったが、日本人の場合でも法的には
全く同じである。

ただし、戸籍のない国(戸籍は日本、
韓国、台湾にしかない)の人間である
彼には、子どもがその個人として登録
されずに親の籍に入り、しかも戸籍の
ない彼のかわりに妻の籍でもなく、
すでに別れた夫の籍に、ということは
子どもから見れば全くの他人の籍に
入らなければ戸籍ができないなどと
いうシステムは、さだめし不思議に
映ったことだろう(その後、実の親の
籍に移す方法もあるにはあるが……)。

しかし、同様のケースで、つまり子の
実の両親と法律上の父の間で、子の父
に関する争いはないにもかかわらず、
調停で認められなかった例が十五年
前にあった。

数回にわたる調停で、調停委員は
「子の父親を決めるのは、あなた達じゃない」
と言った。

あまりのばかばかしさに
彼らは申し立てを取り下げた。

法の指定する父、つまり子どもから見たら
他人の男性の戸籍に、子として入ったまま。

法律上の父が協力的あっても、面倒な
手続きが必要であるが、そうでなかった
場合は一層困難である。

そもそも夫の暴力から逃げたあと、やっと
離婚したケースや、離婚の調停さえ拒み、
戸籍上の離婚が成立していない場合である。

このような結果、戸籍のない子ども
たちが生まれている。

新聞やテレビでは
「戸籍がないと学校に行けない」
「戸籍がない人間は、埋葬もできない」
という誤った報道が繰り返されている。

その悪意なき過ちは、結果として戸籍
の過大評価と、日本人に〈戸籍は絶対的
なもの〉 という観念を増すことに加担
している。

日本人によって戸籍がないという事実は、
あたかもその人間が存在しないかの如く
である。

東南アジアの在留邦人など、 戸籍がない
ために日本人として認められない人の例は、
少なくない。

戸籍という一枚の紙と、一人の人間が生き
ている現実と、一体どちらが重いもの
なのだろう。

この当たり前のことが、戸籍制度の前では、
見えにくくなってはいないだろうか。

ドイツ語やフランス語では、
〈権利〉と〈法律〉ということばは、
同じ単語(das Recht,droit)であるという。

つまり人々の権利を定めたものが法律であり、
人の管理のために法律があるのではない。

ところが日本の法律はどうか。
誰のために必要かと思われるものは
「嫡出の規定」にとどまらない。

「嫡出の規定」以前の問題として
〈嫡出とは〉……
そもそも戸籍とは誰にとって必要なのか。
これによって誰が幸せになるのかを
考えてみることからはじめたい。

戦後最大規模といわれる民法改正は
真近に迫っている。

 

 

 

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